
こんにちは、クリスクアジア編集部です。
「タイ向けに商品をローカライズする」と聞いたとき、どのような対応を思い浮かべるでしょうか。
商品名や説明文をタイ語に翻訳する。食品であれば味をタイ人好みに調整する。化粧品であれば高温多湿の気候に合った処方へ変更する。このような対応も、もちろん重要なローカライズの一つです。
しかし、実際にタイの消費者に商品を手に取ってもらうためには、それだけでは十分ではありません。どれほど商品が現地の好みや生活習慣に合っていても、「一度試してみよう」と思える価格になっていなければ、購入にはつながらないからです。
クリスクタイが実施したアンケート調査では、「日本の企業に、自国の文化や生活様式についてもっと理解してほしいこと」を尋ねました。その自由回答に寄せられたのが、日本とタイの経済状況の違いや、現地の消費者が購入しやすい価格への理解を求める声です。
この回答から見えてくるのは、タイ向けの商品ローカライズでは、言語やデザインだけでなく、「価格」も現地仕様へ変える必要があるということです。
ただし、これは単純に値下げをすればよいという話ではありません。
容量を小さくする、機能を絞る、初回購入用の商品を用意するなど、日本品質を保ちながら購入時の負担を抑える方法があります。今回はアンケートに寄せられたタイ人の声をもとに、価格、容量、仕様、販売方法まで含めた、タイ向け商品ローカライズのポイントを考えます。
ローカライズは翻訳ではない
海外向けマーケティングにおいて、「ローカライズ」は幅広い意味を持つ言葉です。
Webサイトや商品説明を現地語へ翻訳することもローカライズですし、現地の宗教や文化に配慮して表現を変更することも該当します。一方、商品企画の視点では、さらに踏み込んだ対応が求められます。
例えば、日本で販売している商品をタイ語のパッケージへ変更しても、容量や価格が現地の消費者に合っていなければ、商品を購入してもらうことはできません。反対に、日本の商品をそのまま再現していなくても、現地の生活環境や購買力に合った仕様へ変更することで、多くの消費者に受け入れられる可能性があります。
商品ローカライズで考えるべき項目は、大きく分けると次のようになります。
- 商品の名称や説明に使う言語
- 現地の嗜好に合わせた味や香り
- 気候や生活環境に合わせた機能
- 購入しやすい容量と価格
- 現地で使いやすい容器やパッケージ
- 消費者が利用する販売チャネル
- 商品価値の伝え方
このなかで、日本企業が見落としやすいのが、容量と価格のローカライズです。
「日本で売れている商品だから、タイでも同じ形で販売したい」と考えること自体は不自然ではありません。しかし、日本とタイでは、消費者の所得水準や生活費、商品の比較対象が異なります。
日本で無理なく購入できる価格が、タイでも同じように受け入れられるとは限らないのです。
タイ人が求める価格への配慮
今回のアンケート調査で、このような質問を行いました。
「日本の企業に、あなたの国の文化、宗教、生活様式についてもっと理解してほしいことはありますか?」
様々な自由回答には、コミュニケーションの取り方やマーケティング表現、タイ人の生活感覚などについて、さまざまな意見が寄せられました。そのなかで、商品ローカライズに関わる意見として注目したいのが、次の回答です。
「おそらく経済状況と環境の問題でしょう。経済状況が日本とは異なるため、価格設定は費用対効果の高いものでなければならず、製品もタイの環境に適したものでなければならないと考えているのでしょう。」
また別の回答では、タイで製品を販売するのであれば、タイ人が好むマーケティング戦略を取り入れ、現地の消費者が購入しやすい価格を検討してほしいという趣旨の意見も寄せられました。価格の安さだけでなく、「費用対効果」と「タイの環境への適応」が同時に挙げられている点は重要です。
タイ向けのローカライズでは、商品の価格だけを切り離して考えるのではなく、その金額に対して、どのような価値を提供できるのかまで設計する必要があります。
要点①:購入総額から考える
タイ向けの価格を決めるとき、最初に意識したいのが、商品の単価ではなく「1回の購入で支払う総額」です。企業側は、原材料費や製造費、物流費、関税、販売手数料などを積み上げて価格を決めます。しかし、消費者が見ているのは、それらの内訳ではありません。
自分が一度の買い物で、いくら支払う必要があるのかを見ています。
例えば、500ミリリットルで1000バーツの商品と、100ミリリットルで250バーツの商品があったとします。
内容量当たりで比較すれば、500ミリリットルの商品の方がお得かもしれません。しかし、初めて商品を購入する消費者にとって、1000バーツを支払うことと250バーツを支払うことでは、購入のハードルが大きく異なります。
「お得だから大容量を購入する」とは限らず、「少し割高でも、まずは少量で試したい」と考える消費者もいます。特に、日本から新しくタイへ進出するブランドは、現地での認知やレビューが十分に蓄積されていません。
品質がわからない商品へ最初から高額を支払ってもらうよりも、初回購入の負担を下げる方が、商品を体験してもらいやすくなります。価格をローカライズするときは、「日本の商品をいくらで売るか」ではなく、「タイの消費者が初めて購入するとき、いくらなら試しやすいか」から逆算することがポイントです。
要点②:容量で価格を調整する
商品自体の価格を大幅に下げることが難しい場合は、容量を変更する方法があります。
例えば、日本で販売している通常サイズに加えて、タイ向けに小容量の商品を用意します。これは単なる廉価版ではありません。小容量の商品には、購入総額を抑えるだけでなく、初めての商品を試しやすくする役割があります。
化粧品であれば、肌に合うかわからない状態で大容量を購入する不安を減らせます。調味料であれば、タイの家庭料理にどの程度使えるのかを確認してから通常サイズへ移行できます。
洗剤や衛生用品、健康食品などでも同様です。購入前に効果や使用感を判断しにくい商品ほど、小容量化によって初回購入のハードルを下げられる可能性があります。ただし、容量を小さくするだけでは不十分です。
小容量化すると、容器や包装、物流にかかるコストの割合が高くなり、内容量当たりの価格が上がることがあります。見た目が小さすぎれば、消費者から「量の割に高い」と判断されるかもしれません。
そのため、次のような点を確認する必要があります。
- 何回程度使用できる容量なのか
- 初回購入用として納得できる価格か
- 通常サイズとの差がわかりやすいか
- 小容量でも商品の効果を実感できるか
- パッケージが割高に見えないか
- 開封後に使い切りやすいか
「容量を減らして価格を下げる」のではなく、「商品を試すために最適な容量を設計する」と考えることが重要です。
要点③:機能に優先順位をつける
すべての機能をそのまま残した状態で、価格だけを下げることは簡単ではありません。そこで検討したいのが、タイ市場で必要とされる機能と、必ずしも重視されない機能を分けることです。
日本で販売している商品には、日本の消費者が求める機能や品質が盛り込まれています。しかし、そのすべてがタイの消費者にとって同じ価値を持つとは限りません。
タイで使用される場面を確認し、必要な機能を残しながら仕様を見直すことで、購入しやすい価格帯へ近づけられる可能性があります。家電であれば、タイで日常的に使われる機能を中心にしたエントリーモデルを用意する方法があります。
化粧品であれば、高温多湿の気候に合った使用感や紫外線対策など、現地で重視される機能を軸に商品を再設計できます。
食品であれば、日本と同じ食べ方を前提にするのではなく、タイの家庭料理へ取り入れやすい味や用途に調整することも考えられます。
重要なのは、単なる機能削減にしないことです。
タイの消費者に必要な機能を残し、利用頻度の低い機能を見直すことであれば、品質を下げるのではなく、現地に合わせて品質の方向性を変えることになります。日本仕様の商品から何を削るかではなく、タイの生活者にとって何を残すべきかという視点で検討する必要があります。
要点④:利用環境まで合わせる
アンケート回答では、価格とともに「製品もタイの環境に適したものでなければならない」という意見が挙げられました。これは、価格をタイ向けに調整しても、現地で使いにくければ商品は定着しないことを示しています。
例えば、化粧品や日用品の場合、高温多湿の気候でも快適に使用できるか、保管中に品質が変化しないかという確認が必要です。
食品であれば、タイの家庭で使われている調理器具や保存環境、一般的な食事の量なども商品設計に関係します。
家電や耐久消費財では、電圧やプラグの違いだけでなく、修理、部品交換、保証への対応も含めて考えなければなりません。
商品本体が優れていても、故障時に相談できる場所がなければ、消費者は高い価格を受け入れにくくなります。
反対に、現地語で問い合わせができ、保証や交換の仕組みが整っていれば、価格が多少高くても「安心して購入できる商品」として選ばれる可能性があります。タイ向け商品ローカライズでは、商品を購入する瞬間だけでなく、使用し、保管し、買い替えるところまで想定することがポイントです。
要点⑤:販路ごとに商品を変える
同じタイ市場でも、販売する場所によって適切な容量や価格は変わります。
百貨店や高級商業施設では、品質やブランドの世界観を重視したプレミアム商品が選ばれることがあります。一方、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、日常的に購入しやすい価格や容量が重要になります。
ECモールでは、価格だけでなく、送料、クーポン、レビュー数、販売実績なども比較されます。商品の本体価格が安くても、送料を含めた総額が高ければ、購入を見送られる可能性があります。
そのため、すべての販路で同じ商品を販売するのではなく、チャネルに合わせて商品を分ける方法も考えられます。
例えば、実店舗では1個から気軽に購入できる小容量商品を扱い、ECでは複数個のセットや送料無料になる商品を販売します。
百貨店ではギフト向けのパッケージを展開し、ECでは日常使いを想定した簡易包装の商品を用意する方法もあります。
販売チャネルが違えば、消費者が商品に期待する価値も異なります。タイ向け商品を一つだけつくるのではなく、「誰が、どこで、どのように購入するのか」に合わせて商品を組み替えることが大切です。
要点⑥:価格差の理由を伝える
タイの購買力に合わせることは重要ですが、すべての商品を現地の競合と同じ価格まで下げる必要はありません。
日本の商品が持つ品質や機能、耐久性、安全性に明確な価値があるのであれば、それを適切に伝えることで、価格差を受け入れてもらえる可能性があります。ただし、「日本製だから高品質です」という説明だけでは、十分な説得力を持ちにくくなっています。
消費者が知りたいのは、日本の商品であることではなく、高い価格を支払うことで自分にどのようなメリットがあるのかという点です。
例えば、耐久性に優れた商品であれば、「長持ちします」と伝えるだけでなく、どのくらいの期間使用できるのか、買い替えの回数をどの程度減らせるのかを示します。
調味料であれば、原材料へのこだわりだけでなく、1本で何回程度の料理に使用できるのか、タイ料理にもどのように取り入れられるのかを伝えます。
化粧品であれば、成分名を並べるだけでなく、タイの気候下でどのような使用感が得られるのかを具体的に説明します。
価格の理由を、日本企業側のこだわりではなく、タイの消費者が実感できる価値へ置き換えることがポイントです。
「高品質だから売れる」の誤解
日本企業がタイ市場へ進出する際、「日本製品は品質が高いから、多少高くても売れる」と考えてしまうことがあります。
確かに、日本ブランドの信頼性が購入理由になる商品カテゴリーはあります。
しかし、日本品質への評価と、実際に購入できる価格は別の問題です。タイの消費者が商品を高く評価していても、一度の購入金額が大きければ、「欲しいけれど買えない商品」になる可能性があります。
また、現地の商品や他国ブランドと比べて価格が高い場合には、その差額に見合う価値が求められます。
世界銀行はタイ経済について、国内消費が経済成長を支える一方、家計債務への対応が必要であると指摘しています。タイ中央銀行も、所得の回復が遅く債務負担が大きい層の返済能力を注視する必要があるとしています。
タイ市場に消費意欲があることと、消費者が価格を気にせず購入できることは同じではありません。だからこそ、「品質を維持するため、この価格以下にはできない」と結論づける前に、容量、仕様、販売方法を変える余地がないかを検討する必要があります。
ターゲットを一括りにしない
タイ向けの適正価格を考える際には、「タイ人」という一つの消費者像をつくらないことも重要です。バンコク中心部で働く高所得層と、地方都市で暮らす生活者では、使える金額や日常的に利用する店舗がまったく異なります。
また、同じ所得層でも、商品カテゴリーによって支出の優先順位は変わります。
美容商品には積極的に支出する一方で、日用品は価格を重視する人もいます。食品では日本産に魅力を感じても、家電では保証や修理のしやすさを優先する人もいるでしょう。
商品ローカライズを始める前に、次のようなターゲット像を整理する必要があります。
- 富裕層向けのプレミアム商品なのか
- 都市部の中間所得層向けなのか
- 若年層が気軽に試せる商品なのか
- 家族で継続的に使用する商品なのか
- 訪日経験のある消費者を狙うのか
- 日本ブランドを初めて知る層を狙うのか
誰に販売するかが曖昧なままでは、適切な価格や容量も決められません。
ターゲットを広く設定するほど市場が大きく見えますが、実際には、誰にとっても決め手のない商品になる可能性があります。タイ市場全体へ合わせるのではなく、最初に狙う消費者層へ深く合わせることが、ローカライズの精度を高めます。
POP UPで反応を確かめる
タイ向けの商品ローカライズは、日本国内の会議だけで完成させることが難しい取り組みです。
現地の消費者がどの価格を高いと感じるのか、どの容量なら試しやすいのか、パッケージのどこに注目するのかは、実際に商品を見て、触れてもらうことで初めてわかる部分があります。そこで活用したいのが、タイ国内の商業施設やイベントスペースなどで実施するPOP UPストアです。
POP UPストアは、商品を期間限定で販売するだけの場所ではありません。消費者が商品を手に取ったときの反応や、購入を迷った理由を確認できるリアルなテストマーケティングの場でもあります。
例えば、価格を見た後に商品を棚へ戻す人が多ければ、購入総額が障壁になっている可能性があります。通常サイズより小容量サイズが選ばれるのであれば、「まずは少量で試したい」というニーズがあると考えられます。
食品であれば試食、化粧品であればテスター、日用品であれば実演を行うことで、商品の価値をどのように伝えればよいのかも確認できます。
売れたかどうかだけでなく、「なぜ手に取ったのか」「なぜ購入しなかったのか」を把握できることが、リアルマーケティングの大きな利点です。
現地の声を商品へ戻す
POP UPストアで集めたいのは、売上や来場者数だけではありません。「小さいサイズはないのか」「どのくらい使用できるのか」「なぜ現地商品より高いのか」といった質問には、商品をローカライズするためのヒントが詰まっています。
ECの場合、購入したのか?どこでかご落ちしたのか?というユーザーファネルを用いて、それぞれの定量分析を起点にすると思います。
しかし、ここPOP UPストアで触れ合うのは、生のタイ人消費者の声です。独自のアンケート調査として、一つずつのサンプルを丁寧に集めていくのと同じです。つまり、その原因を分けて考える必要があります。
購入総額が負担になっているのであれば、小容量化が有効かもしれません。価格に見合う価値が伝わっていないのであれば、商品仕様ではなく、パッケージや売り場での説明を見直す方法があります。
ただPOP UPストアの現場では、こうした細かな声を直ぐに商品仕様に反映することはできません。あくまで机上の空論として、仮説立ててきたイメージと実際にターゲット層として描いてきたペルソナのタイ人消費者の声を拾い続けることです。
展示会への出展も、素晴らしいテストマーケティングの機会ですが、「日本好き」のようなバイアスがかかったターゲット層へ展開するのではなく、POP UPストアでしか得られない貴重な声を拾い集めることこそが、真のローカライズに繋がるかと思います。
POP UPを繰り返す
POP UPストアで反応がよかったからといって、すぐにタイ全土へ商品を展開する必要はありません。
まずは、現地で支持された価格や容量、パッケージをもとに商品を改善します。その後、ターゲットとの相性がよい小売店や商業施設で限定販売を行い、リピート購入や販売スタッフの評価も確認します。
その後、取扱店舗や地域を増やし、常設販売や流通拡大へつなげていきます。大切なのは、POP UPストアを一時的な販売イベントとして終わらせないことです。以前、POP UPストアを行った都市とは異なる地で、再びPOP UPストアを行い、その都市に適応させたマーケティングを実施していくことが、大切でしょう。
現地消費者との接点をつくり、そこで得た反応を商品企画へ戻し、販売場所を段階的に広げていく。この流れをつくることで、POP UPストアはタイ市場へ定着するための入口になります。
まとめ
今回のアンケートでは、日本とタイの経済状況が異なることを踏まえ、費用対効果の高い価格設定や、タイの消費者が購入しやすい価格への配慮を求める声が寄せられました。
これは、単に「もっと安くしてほしい」という要望ではありません。
価格、容量、仕様、パッケージまで含め、タイの消費者が実際に手に取り、生活のなかで使い続けられる商品へローカライズしてほしいという提案だと考えられます。
そのためには、現地で商品を見て、触れて、試してもらい、そこで得た反応を商品企画へ反映することが重要です。
クリスクアジアでは、タイ現地での市場調査やPOP UPストア、店頭施策、イベント、消費者へのヒアリングなど、リアルな接点を活用したマーケティングにも対応しています。
日本の商品が持つ価値を守りながら、タイの生活者が購入しやすい形へ整えていく。その積み重ねが、タイ市場で長く選ばれる商品づくりにつながります。

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