
こんにちは、クリスクアジア編集部です。
マレーシアでは、日本食レストランが増えています。農林水産省の2025年調査によると、店舗数は2023年に比べて約16.4%増加しました。現地でも日本食を楽しめる機会が広がっています。
こうした広がりを見れば、「現地で日本食が親しまれているなら、日本に来ても食事には困らないのでは」と思うかもしれません。しかし、料理を知っていることと、旅先で安心して注文できることは別です。
例えば、マレーシアでハラル認証のある日本食店を利用していた人が、日本でも同じようにラーメンを食べたいと考えたらどうでしょう。気になる店は見つかっても、スープや調味料の中身が分からない。魚料理なら食べられそうに見えても、料理酒の使用までは写真で判断できない。お土産のお菓子を手に取っても、裏面の日本語が読めない。
日本食への関心があっても、注文や購入の一歩手前で立ち止まってしまう。クリスクアジアの独自調査でも、ハラル認証や成分表示に、食事選びの不安が表れていました。
この背景を理解するには、まずマレーシアの食卓を知ることが近道です。マレー、中華、インドなどの文化が混ざり合う国では、何を食べたいかに加えて、何を確かめたいかも異なります。その違いが分かると、日本の飲食店や観光地が伝えるべき情報も見えてきます。
マレーシアの食卓は多文化の交差点
マレーシアの民族構成は、国民ベースでマレー系58.4%、中華系22.0%、インド系6.5%。このほか、先住民族などの「その他のブミプトラ」が12.3%、その他が0.8%を占めます。マレー系が約半数強、中華系が約20%と覚えておくと、国の輪郭をつかみやすくなります。
その多様さは、料理を見るとぐっと身近になります。ココナツミルクで炊いたご飯におかずを添えるナシレマ、中華系の炒め麺チャークイティオ、カレーなどと食べるロティチャナイ。マレー、中華、インドの食文化が、それぞれの持ち味を残しながら共存しています。
さらに、マレーと中華の文化が融合したニョニャ料理のように、異なる文化が出会って生まれた味もあります。マレーシアの食の魅力は、料理の種類が多いことに加え、その背景にさまざまな暮らしや歴史が重なっていることにあるのです。
ただ、食文化が混ざり合っていても、誰もが同じものを食べるわけではありません。宗教や家庭の習慣、個人の好みによって、食べられるものや確認したいことは変わります。
日本側から「マレーシア人向け」とひとまとめに見ていると、その違いが見えにくくなります。逆に、どのような食の背景を持つ人に来てほしいのかを考えると、発信の焦点は合わせやすくなります。
日本食がこの多彩な食卓に加わっていることも、インバウンドを考えるうえで興味深い点です。マレーシアでは、ハラル認証を取得して展開する日本食店の事例も紹介されています。日本食を、自分の食事の条件に合った形で楽しめる選択肢があるのです。
そのような店で日本食に親しんだ旅行者にとって、日本への旅は「知っている料理を本場で味わう」機会にもなり得ます。だからこそ、料理名だけを紹介するより、その人が食べられる条件まで分かる案内を添えたいところです。
おいしそうの先にあるハラルの壁
今回のクリスクアジアによる独自調査では、マレー系の8割が食事選びで最も不安なこととして挙げたのは、「厳格なハラル認証」でした。残る2割も「ノーポーク・ノーラード」、つまり豚肉・豚脂不使用を選んでいます。
今回のマレー系の回答では、つまり100%がハラルに関わる条件に集中していました。料理の味や見た目を比べる前に、まず「自分が食べられるものか」を確かめたい。その切実さがうかがえる結果です。
ハラルは、イスラム教の教えで許されるものを指します。食事では豚肉を避けることがよく知られていますが、確認することはそれだけではありません。
例えば、日本の魚料理。日本人にとっては、魚を使っていることが分かれば、どのような味かを想像できるかもしれません。しかし、ムスリム旅行者にとっては、魚そのものに加え、たれや煮汁に料理酒・みりんが使われているかも気になるところです。
ラーメンも、トッピングを見れば肉の種類はある程度分かりますが、スープや油、調味料の中身までは写真に写りません。「豚肉は載っていません」という説明で、知りたいことがすべて分かるわけではないのです。JNTOも、ムスリム向けの案内で日本料理における料理酒・みりんの使用や、調理場の共用について触れています。
現地で慣れ親しんだ料理でも、日本では店を選ぶたびに確認が必要になるかもしれません。「本場の味を楽しみたい」という気持ちがあるだけに、情報が見つからず断念する場面は、旅行者にも店にも惜しい機会となります。

認証が安心につながる理由
では、なぜ認証が重視されるのでしょうか。その背景を考える手がかりが、マレーシアのハラル食品に関する基準です。
マレーシアには「MS」、すなわちMalaysian Standardという国家規格があります。食品分野の「MS 1500:2019」は、ハラル食品の製造や取り扱いに関する一般要求事項を定めたものです。扱う範囲は、原材料にとどまりません。設備や器具、衛生管理、保管・輸送、包装・表示などにも及びます。何を使った料理なのかに加え、どのように作られ、扱われるのかまで視野に入っているのです。
旅行先で、食事のたびに調味料や調理環境を確かめるのは、簡単ではありません。店員に質問できたとしても、外国語で細かな条件を確認するには手間がかかります。認証は、自分では確かめきれない部分についても、第三者の確認を判断材料にできるため、安心感につながると考えられます。
ここで、MS規格と認証は分けて理解しておきたいところです。MSは基準であり、認証マークそのものではありません。マレーシアのハラル認証は、規格に加えて認証手順などに基づき運用されています。
日本の飲食店も、こうした背景を知ることで、「なぜ豚肉不使用の説明だけでは足りないのか」を理解しやすくなります。認証を取得しているなら、認証機関や対象範囲が伝わるようにする。認証済みの食材を使用している場合は、その説明と店舗自体の認証を区別する。旅行者が頼りにする情報だからこそ、何を確認できる認証なのかまで伝えたいところです。
未認証の店にもできること
認証を重視する回答が多いと聞くと、未認証の店にはできることがないように感じるかもしれません。そこで目を向けたいのが、豚肉・豚脂不使用を選んだ2割の方々です。この回答から見えてくるのは、原材料を確認できる情報へのニーズです。認証の有無を知らせることに加え、何が入っているのかを伝えることにも意味があります。
例えば、メニューに豚肉を使っていない料理があっても、そのことが日本語でしか書かれていなければ、旅行者は気がつけません。英語で説明があっても、料理酒の使用や調理器具の共用について分からなければ、さらに確認したくなる人もいるでしょう。
「No Pork, No Lard」は豚肉・豚脂不使用を伝える表示で、ハラル認証とは異なります。この表示だけで2割が入店するとまでは、今回の回答からは分かりません。それでも、料理の中身が見えない状態を変えることは、店側が取り組める改善です。
まずは一品からでも、主な食材や調味料、調理方法について確認してみる。料理酒を使っているならその事実を伝え、器具を共用しているならそのことも説明する。旅行者にとっては、対応できることとできないことの両方が分かる方が、判断しやすくなります。
どの料理なら自分の条件に合うのかを、旅行者自身が選べるようにする。未認証の店でも、そのための情報は整えられます。
中華系が困るのは読めないこと
一方、中華系の回答で目を引いたのは、約半数の方が挙げた「日本語の成分表示が読めなくて不安」という項目です。
お土産店で、きれいな箱に入ったお菓子を見つけた場面を考えてみましょう。写真や包装からは魅力が伝わっても、原材料が日本語だけなら、何が入っているのかを確かめるのは難しくなります。
飲食店でも、似たことが起こり得ます。「名物」「特製」と書かれた料理は気になりますが、その名前だけでは中身が分かりません。料理名を英語にしても、スープの材料やソースの内容まで伝わるとは限らないのです。
成分を確認したい理由は、宗教上の条件かもしれませんし、アレルギーや苦手な食材かもしれません。今回の調査では理由までは分かりませんが、料理の中身を読めるようにする工夫は、さまざまな人の判断を助けられます。
中華系の回答では、英語でのコミュニケーション、価格と立地、厳格なハラル認証も、それぞれ16.7%でした。中華系だから食の条件は気にしない、と考えるのも早計です。
英語の説明を土台に、来店客に合わせて中国語やマレー語の案内を加える。写真に主な食材の説明を添える。お土産なら、味の紹介と原材料の案内を一緒に見られるようにする。翻訳する内容を少し変えるだけでも、旅行者が知りたいことに近づけるはずです。
接触的な情報訴求こそ
ここまで見てくると、マレーシア向けの集客で足すべきものが見えてきます。料理の魅力を伝える写真に、食べられるかどうかを判断するための情報を添えることです。
例えば、海鮮料理の投稿なら、盛り付けや鮮度を紹介するだけでなく、たれや調味料についても案内する。認証を取得している店なら、認証の対象となるメニューを分かりやすく示す。飲食店のページに価格やアクセスを載せるときも、食事の条件を確認できる案内へつなげておくと、訪問前に検討しやすくなります。
店頭で初めて分かる情報を、来店前に届ける。そのための場所が、Google Map、SNSやWebサイトです。食べられるかどうかを事前に確認できれば、旅程にその店を加えるかどうかも考えやすくなります。
「対応しています」という短い言葉では、具体的に何に対応しているかが分かりません。予約が必要なのか、どの料理を選べるのか、認証はあるのか。旅行者が次に知りたくなることまで、同じページで確認できるようにすると、来店を考える材料がそろいます。
そして、Webで見た情報を店内でも確認できれば、注文の際に説明を一から聞く手間も減ります。スタッフ全員が流暢な外国語を話せなくても、確認済みの食材情報や説明シートがあれば、質問に答える助けになります。
食の案内は、店だけの課題でもありません。例えば、観光地の紹介に「近くで食事をするなら」という情報を添え、認証のある飲食店や、原材料の説明を確認できる店へ案内する。宿泊施設なら、朝食で選べる料理や確認できる食材情報を予約前に知らせる。こうした工夫も考えられます。
景色や体験が魅力的でも、滞在中の食事をどうするかが分からなければ、旅程を組む際の迷いは残ります。観光と食事を一緒に案内すれば、「ここへ行ったら、どこで何を食べようか」までイメージできます。マレーシア向けの地域PRでも、食は旅を具体的にする材料になるのです。
SNSには選ぶ過程も映したい
SNSで料理を紹介するときも、おいしそうに食べる場面に加えて、注文に至るまでの過程を見せる方法が考えられます。
どのメニューが対象かを確認する。原材料の説明を読む。気になる点をスタッフに聞く。そのうえで料理を選び、味わう。こうした流れを紹介すれば、見た人は「自分が訪れたらどう注文するか」を想像しやすくなります。
インフルエンサー施策でも、誰が食べるかだけでなく、どのような情報を届けるかが大切です。食習慣やフォロワーの関心に合った発信者と、認証や原材料の情報をどう紹介するかを相談することで、料理の魅力と実用的な案内を組み合わせられます。
もちろん、出演者が食べたことと、すべてのムスリムが食べられることは同じではありません。認証や調理環境の事実を添えることで、見た人が自分の条件に照らして選べる発信にできます。
投稿の後に届く質問にも、集客のヒントがあります。料理の写真への反応だけでなく、「どのメニューが対象ですか」「ソースには何が入っていますか」といった問いにも目を向けたいところです。その答えを次の発信に加えれば、来店を検討する人の疑問に少しずつ先回りできます。

まず食からマレーシアを知る
マレーシアの食卓には、マレー、中華、インド、そしてさまざまな文化が重なっています。その豊かさを知ると、「マレーシア人」という言葉の中に、異なる食の背景を持つ人がいることが見えてきます。
今回の調査では、マレー系にはハラル認証や豚肉・豚脂不使用、中華系には日本語の成分表示という不安が表れました。現地で日本食を楽しんでいても、日本で食べられるかを確かめるところで立ち止まることはあり得ます。その迷いに応える情報が、集客で工夫できる部分です。
多民族国家だからといって、最初から身構える必要はありません。誰に来てほしいのかを考え、その人が食事を選ぶときに知りたいことを伝える。まず食からマレーシアを知ることは、そのための分かりやすい入口になります。
クリスクアジアでは、現地スタッフの視点を取り入れたコンテンツ企画や、SNS・インフルエンサーを活用した訪日プロモーションを支援しています。店舗や地域の魅力に、現地の人が知りたい情報を添え、訪問を考えるきっかけづくりをお手伝いします。
※調査結果はクリスクアジア独自調査の民族別回答傾向です。「ハラル対応必須」という自由記述は「厳格なハラル認証」に分類しています。各民族全体の割合を示すものではありません。
まとめ
マレーシアで日本食レストランが増えている今、現地で親しんだ料理を日本でも楽しみたいと考える旅行者に、どのような情報を届けられるでしょうか。おいしそうな写真に加え、「自分が食べられる料理か」を確かめられる案内が、店選びを後押しします。
今回の独自調査では、マレー系の約8割が厳格なハラル認証を、中華系の半数が日本語の成分表示を、食事選びの不安として挙げました。マレー、中華、インドなどの文化が重なるマレーシアでは、食の条件も一様ではありません。MS規格やハラル認証の背景を知り、原材料や調理環境について正確に伝えることが、旅行者の判断を助けます。
まずは、自店の認証の有無や原材料を、読める言語で確認できるようにする。その情報をSNSやWebサイトにも載せ、旅行前から見つけられるようにする。飲食店だけでなく、宿泊施設や観光地も食事の案内を充実させれば、旅行者は滞在をより具体的に思い描けます。食を通じてマレーシアを知り、相手が迷う場面に応えることが、訪日集客を考える第一歩です。
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