こんにちは、クリスク・アジア編集部です。
近年、タイでは日本食ブームが定着し、日本式のラーメン店、焼肉店、寿司店、カフェなど、さまざまな日本発の飲食ブランドが進出しています。バンコクを中心に大型ショッピングモールへ日本食レストランが並び、日本食は「特別な外食」から「日常的な選択肢」へと変化してきました。
しかしその一方で、日本企業がタイ市場へ進出する際、「日本で人気だった業態がそのまま成功するとは限らない」という課題も見えてきています。タイの消費者は日本食に高い期待を持つ一方で、価格感覚や満足感、メニューの分かりやすさなど、現地ならではの価値基準で飲食店を評価しているためです。
今回実施したアンケート調査では、タイの消費者が日本食レストランに対して何を求め、どこに不満を感じているのかを分析しました。その結果、「日本らしさ」への期待と、「コストパフォーマンス」への厳しい視線という、2つの大きな傾向が見えてきました。
本記事では、調査結果をもとに、タイ市場で飲食店展開を検討している企業に向けて、今後のメニュー改善やローカライズのヒントを解説します。
今回の調査では、日本食レストランに対して最も期待することとして、85.7%が「味の再現性(日本の味と同じか)」を挙げました。
この結果から分かるのは、タイの消費者は単に「日本風」の料理を求めているのではなく、「日本で食べる味にどれだけ近いか」を重視しているという点です。タイでは日本文化への関心が高く、アニメ、旅行、SNSなどを通じて「本場の日本」を知っている消費者が増えています。そのため、味に対する期待値も以前より高まっています。
例えばラーメンであれば、単に醤油味や豚骨味を再現するだけではなく、麺の食感、スープの濃度、チャーシューの質感、さらには器や盛り付けまで含めて「日本らしさ」が評価対象となっています。また、寿司業態であれば、ネタの鮮度だけではなく、シャリの温度や酢のバランス、提供スピードなど、細かな部分まで本場感が求められています。
これは日本企業にとって大きなチャンスでもあります。なぜなら、「本場の味」を提供できること自体が、現地競合との差別化につながるからです。
一方で、安易なローカライズは逆効果になる可能性もあります。
例えば、現地向けに極端に甘くしたり、辛味を強くし過ぎたりすると、「これは本当に日本食なのか」という疑問を持たれてしまうケースがあります。
もちろん現地嗜好への調整は必要ですが、タイ市場では「日本らしさを残しながら食べやすくする」というバランス感覚が重要になります。
今回の調査では、64.3%が「コストパフォーマンス」を重視していると回答しました。つまりタイの消費者は、「本場の味」と同時に、「価格に見合った満足感」を非常に重視していることが分かります。
日本食はタイにおいて比較的高価格帯に分類されることが多く、特別感のある外食として認識されています。しかし、その分だけ消費者の目も厳しくなります。
実際に今回のアンケートでは、不満点として以下のような声が挙がりました。
特に注目すべきなのは、「量」に関する不満です。
日本では適量とされるボリュームでも、タイでは「少ない」と感じられるケースがあります。タイでは家族や友人とシェアして食べる文化が根付いており、料理の量や満足感に対する期待値が日本とは異なるためです。
また、タイではローカル飲食店の価格が比較的安いため、日本食に対して「高い」という印象を持たれやすい傾向があります。そのため、単純に価格競争をするのではなく、「この価格なら納得できる」と感じてもらうための工夫が必要になります。
タイ市場では、実際の価格以上に「お得感」が重要視される傾向があります。
例えば、日本では一般的なサービスである「ご飯・スープのおかわり自由」は、タイの消費者にとって高い満足感につながる要素になります。
また、以下のような施策も効果的です。
こうした施策は、単純な値下げではなく、「価格以上の価値」を感じてもらうための重要なアプローチです。特にタイではSNS文化が強く、「この店はお得」「量が多い」「セットが豪華」といった口コミが広がりやすい傾向があります。
つまり、コスパの良さは単なる価格戦略ではなく、集客戦略そのものにも直結しているのです。
今回の調査では、「メニューが分かりにくい」という声も見られました。
これは多くの日本企業が見落としがちなポイントです。
日本では一般的な料理名や食べ方であっても、タイの消費者にとっては理解しづらい場合があります。
例えば、以下のようなケースです。
タイでは視覚的に分かりやすいメニューが好まれる傾向があります。
特に初来店の顧客にとって、料理の内容が想像できないことは大きな不安要素になります。
そのため、以下のような改善が有効です。
また、日本独自の食文化について簡単な説明を加えることも、ブランド価値向上につながります。例えば「だし文化」「季節限定」「産地へのこだわり」など、日本ならではのストーリーはタイの消費者にも興味を持たれやすいポイントです。
タイ市場で成功している日本食ブランドを見ると、共通しているのは「日本らしさ」と「現地適応」のバランスが上手いことです。完全な現地化でもなく、完全な日本式でもない。
その中間にある“ちょうど良いローカライズ”が成功の鍵となっています。
例えば、以下のような工夫が見られます。
重要なのは、「日本らしさを失わないこと」です。
今回の調査結果でも分かるように、タイの消費者は「本場感」に価値を感じています。
つまり、日本企業の強みは「日本そのもの」であり、それを崩してしまうと競争力を失う可能性があります。
一方で、日本国内と全く同じ運営では、価格やボリューム感、サービス内容の面でミスマッチが起こる可能性があります。
だからこそ、味は守りながら、満足感の設計は現地化するという考え方が重要になります。
タイ市場では、「安い店」が必ずしも勝つわけではありません。
むしろ重要なのは、「払った価格に対してどれだけ満足できたか」です。
今回のアンケート結果からも、タイの消費者は単純な低価格を求めているわけではなく、「日本らしい美味しさ」と「納得できる満足感」の両立を求めていることが分かります。
つまり、以下のような状態が理想です。
この「総合的な満足感」をどう設計するかが、今後のタイ市場攻略において極めて重要になります。
今回の調査から見えてきたのは、タイの消費者は日本食に対して高い期待を持っているという事実です。
85.7%が「本場の味」を求め、64.3%が「コストパフォーマンス」を重視しているという結果は、日本企業にとって重要な示唆を含んでいます。
つまり、単なる日本食ではなく、「本当に日本らしい味」を提供することが差別化につながる一方で、その価値を“価格以上の満足感”として体験してもらう必要があるということです。
そのためには、以下の3点が重要になります。
1つ目は、「味の妥協をしないこと」です。
タイ市場では、本場感そのものがブランド価値になります。
2つ目は、「コスパの演出」です。
ご飯・スープのおかわり自由や、満足感の高いセット設計など、“お得に感じる仕組み”が重要になります。
3つ目は、「分かりやすさ」です。
メニュー、注文方法、セット内容などを直感的に理解できるようにすることで、初来店のハードルを下げることができます。
タイ市場は今後も日本食需要の拡大が期待される有望市場です。
しかし、成功するためには「日本で成功したモデルをそのまま持ち込む」のではなく、現地消費者の価値観を理解しながら、日本ブランドの強みをどう活かすかが問われます。
今回の調査結果は、その方向性を考える上での重要なヒントになるでしょう。
現在クリスクアジアでは、タイをはじめとした東南アジア各国に現地スタッフを配置し、生活者視点に基づいたインバウンド戦略支援を行っています。
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