2026年に愛知・名古屋で開催される国際スポーツ大会を目前に控え、地域経済への期待が高まっている。
その機運を背景に、2026年3月25日、STATION Aiで開催された「第6回東海共創会議」。本イベントは、名南M&Aが主催する交流イベントで、「東海エリアの事業会社様が新たな発想・新たな技術・新たなビジネスと出会い、共創するきっかけを得ること」を目的として開催された。テーマは「国際スポーツ大会を契機に訪日客を獲得する、勝てるPR術」。
当日は、名古屋市、インバウンドマーケティング企業、地域事業者などが登壇し、東海エリアが世界から選ばれるための戦略について議論が交わされた。会場では、単なる“観光PR”ではなく、「地域にお金を落とす仕組みをどう作るか」「海外目線で地域資源をどう再編集するか」といった、より実践的な議論が展開された。
本稿では、株式会社クリスク・アジア副社長/Clisk Thailand代表取締役の金城弘二郎、そして株式会社ビヨンド代表取締役の道越萬由子氏の発言を中心に、その戦略と思想を振り返る。両者に共通していたのは、“日本人が当たり前だと思っている地域資源こそ、海外から見れば大きな価値になり得る”という視点だった。
「株式会社クリスク・アジアの金城と申します。タイ法人が今10年目で、東京の本社が20年目の会社になってます」
そう自己紹介を始めた金城は、クリスク・アジアが長年にわたり、東南アジアを中心にインバウンド・海外デジタルマーケティングを支援してきたことを紹介した。
「クリスク・アジアの日本法人は基本的には訪日インバウンドですね。日本に来る外国人の旅前・旅中でのデジタルマーケティング支援を主にやってきてます」
同社はタイに18人規模の現地チームを持ち、さらにベトナム、マレーシア、インドネシアにも拠点を展開。各国には、日本語もできるネイティブのマーケターを配置し、現地感覚に根差したマーケティング支援を行っているという。
「東南アジアからスタートしていますが、最近は中国、台湾、韓国など東アジアの経験値の高いメンバーも加わりましたので、現在は東アジアと東南アジアを一元でプロモーションできる体制を作っております」
この“現地に人がいる”という点が、金城の話全体を通して重要なキーワードになっていた。
「海外向け施策」というと、日本国内で制作したクリエイティブを翻訳して配信するイメージを持たれがちだ。しかし金城は、単なる翻訳ではなく、“現地の感覚に合うかどうか”が何より重要だと繰り返す。
「そのコンテンツがどの国にハマるかを、現地メンバー含めて最初に判定します」
つまり、海外マーケティングとは“言語変換”ではなく、“文化変換”なのだ。
そうした考え方がよく表れていたのが、岡山県観光課との事例だ。
「自治体の案件で分かりやすい事例です。岡山市をタイ人の方にPRする目的でしたが、岡山シーガルズという女子バレーチームに、ちょうどタイ人の選手が移籍した時期だったんです」
この“タイ人選手が所属している”という要素を、単なるニュースとして終わらせず、“タイ人が岡山に親近感を持つ理由”として設計した。
「すでにタイ人の親和性があり、実施時期も1〜3月で、タイ人が一気に来る4月の直前で非常に良かった」
施策では、PR動画を現地スタッフの目線で監修・翻訳し、ポスターやパンフレットなどのリアル施策に加え、YouTube、Facebook、Instagramなど、タイで日常的に使われているSNSを横断して展開した。
「さらに現地の有力なWebメディアでプレスリリースを出し、記事化していく取り組みをやりました」
ポイントは、“単一チャネルで終わらせない”ことだ。
単にInstagramに動画を投稿するだけではなく、SNS、Webメディア、オフライン施策を組み合わせることで、“岡山が話題になっている空気”を現地に作っていく。
会場では司会の上坂氏も、「Instagramだけじゃなくて、クロスメディアで現地の文脈に合わせて発信していくということですね」とコメントしていた。
海外向け施策において重要なのは、日本側が伝えたいことではなく、“現地の人がどう受け取るか”。岡山県の事例は、その好例と言える。
金城の話の中で、特に会場の関心を集めていたのが、東南アジアにおけるSNSの影響力についての発言だ。
「東南アジアはSNSの影響力が日本の3倍ぐらいあります」
この一言は、多くの参加者にとって印象的だった。
「自分のステータスを上げるための『映える』ところにこだわりますし、SNS経由で紹介されたものを買う影響力も大きいです」
つまり、東南アジアではSNSが単なるコミュニケーションツールではなく、“消費行動そのもの”に直結している。
そのため、クリスク・アジアでは「プロモーションの70%はSNSを絡めています」と語る。
さらに近年では、SNSだけに留まらない統合的な施策も増えているという。
「最近はスマートフォンや人流データを使ったデジタルサイネージ、CTV広告などをセットでやることで相乗効果を一気に上げるケースが増えています」
つまり、“投稿して終わり”ではなく、オンラインとリアルを横断しながら接触回数を増やし、購買・来訪へつなげていく設計が必要になっている。
金城は、北海道のスノーアクティビティ施設の事例も紹介した。
「こちらはインドネシア人の利用者を増やしたいというご相談でした」
施策では、インドネシア人フォロワー200万人規模のメガインフルエンサーを起用し、家族で現地を体験してもらった。
「Facebook、TikTok、YouTubeショート、Instagramなどでコンテンツを作りました。その動画を旅前の方や、北海道近辺にいるインドネシア人の方に対して拡散しました」
結果は非常に大きかった。
「結果としてインドネシア人の利用者は昨対比180%まで伸び、広告に対するROAS(費用対効果)も500%回収できており、成果が出た事例になります」
ここで重要なのは、“インフルエンサーを呼んだから成功した”わけではない点だ。
実際、金城はクーポン施策についてこう説明している。
「クーポンはお得感で行動を起こしやすいトリガーにもなりますが、効果検証をちゃんとできるようにという理由が大きいです」
「その方経由で予約した方が何人いて、売上がいくらあったかを把握するための前提としてやっています」
つまり、感覚論ではなく、“数字で検証できる設計”まで含めて施策を組み立てている。
インバウンド施策は、「バズった」で終わってしまうケースも少なくない。しかしクリスク・アジアの事例は、認知から送客、そして売上計測までを一気通貫で設計している点に特徴がある。
トーク後半では、伊東株式会社の日本酒ブランド「敷嶋」を例に、“東南アジア向けにどう見せるべきか”という議論も行われた。
金城はそこで、「東南アジアの方は『どう自分ごと化できるか』が重要です」と語る。
たとえばタイ市場に向けては、単に“日本酒です”と打ち出すだけでは弱い。
「例えばタイであれば、ガイヤーン(焼き鳥)やトムヤンクンなど、普段の現地の食事に敷嶋のお酒がめちゃくちゃ合いそうだな、というエッセンスを加えるだけでも違います」
つまり、“日本人が考える日本酒の魅力”ではなく、“タイ人の日常にどう入り込むか”で見せ方を変える。
さらに、国による規制や文化の違いにも言及した。
「タイなどはアルコールのプロモーション規制がかなり厳しいので、直接お酒の広告を出すのではなく、旅行のストーリーの中に自然に『知る人ぞ知る特別感』として組み込む見せ方が必要です」
「イスラム圏(マレーシアやインドネシア)のハラール対応など、国ごとに事情が違うので現地の事情を踏まえることが大事です」
ここでも一貫していたのは、“日本側の感覚だけで施策を作らない”という姿勢だった。
最後に、国際スポーツ大会を契機とした地域の未来について問われた際、金城はこう締めくくった。
「国際大会をきっかけに、『今回は名古屋に行ってみよう』と選ぶ外国人が増えるはずです」
「これを機に名古屋がさらに熱くなってくれたらいいなと思っております」
単なる一過性のイベントではなく、“地域が海外から選ばれる理由”を作れるか。
その問いに対し、金城は一貫して「現地目線」と「データに基づく実践」の重要性を語っていた。
「はじめまして。株式会社ビヨンドの代表をしております道越と申します。インバウンド向けのプロモーション事業を2016年からやっておりまして、10年目の会社になります」
そう語り始めた道越氏は、創業以来、中国を除くアジア、欧米豪市場向けにインバウンドマーケティングを展開してきた。
「創業からずっと海外向けのSNSマーケティングやデジタルマーケティング、インフルエンサーマーケティングなどを強みとしておりまして、中国以外のプロモーションは500社以上やってきております」
ビヨンドの特徴は、“海外向け発信を日本人だけで考えない”点にある。
「日本が好きで日本を発信したいという在日外国人の方のコミュニティを運営しております」
このコミュニティには、東南アジア、北米、ヨーロッパなど多様な国籍のクリエイターが約500人所属している。
「インフルエンサーさんやクリエイター、ライター、カメラマンみたいな、優秀な『日本を発信したい』という熱い方が今500名ほど登録してくれていて、名古屋エリアにも結構いらっしゃいます」
道越氏が強調していたのは、“ネイティブ視点”の重要性だ。
「インバウンドマーケティングではネイティブの視点が非常に大事なので、彼らに地域や企業の商品を見てもらって、ネイティブ視点でコンテンツを磨き上げてもらったり、企画を一緒に考えて発信してもらったりということで盛り上げております」
海外に向けた情報発信は、日本人だけで完結させてしまうケースが多い。しかし、海外の人が本当に魅力を感じるポイントは、日本人の想定とズレていることも少なくない。
ビヨンドは、そのズレを埋める役割を担っている。
道越氏は、SNSマーケティングの本質についても興味深い話を展開した。
インバウンド施策というと、「どのSNSを使うべきか」という議論になりがちだ。しかし道越氏は、“媒体選び”以前に、“誰の言葉で語るか”が重要だと語る。
特に東南アジア市場では、インフルエンサーやクリエイターが持つ“信頼”が非常に大きい。単に広告を配信するのではなく、現地の生活者が共感できる人間を通じて、日本の魅力を伝えていく。
その文脈の中で語られたのが、大阪観光局との事例だった。
「大阪はずっとアジア向けのプロモーションに予算を投下してきていたんですけれども、万博を機に欧米豪のターゲットも取っていこうとなりました」
事前調査を行ったところ、欧米圏では意外なイメージが浮かび上がったという。
「実は彼らが『大阪はみんな行くけど夜が怖いイメージだ』とか『ぼったくられるんじゃないか』みたいなイメージを持っていることが見えてきました」
そこでビヨンドは、欧米のクリエイターを大阪に招き、“安心して楽しめる夜の大阪”を発信した。
「アメリカ人やヨーロッパ人のクリエイターを大阪に連れて行き、彼らの視点でお勧めできるバーやエンタメが見れる場所など、安全に楽しめるナイトスポットをInstagramのリールで欧米豪に発信していきました」
ここで重要なのは、“日本側が安全だと言う”のではなく、“欧米人が安心している様子を欧米人が発信する”という構図だ。
つまり、信頼は“同じ目線の人”から生まれる。
イベント中盤では、インフルエンサー施策についての考え方も語られた。
近年、自治体や企業がこぞってインフルエンサー施策に取り組んでいる。しかし、フォロワー数だけで判断し、“呼べば成果が出る”と考えてしまうケースも少なくない。
道越氏は、そうした短絡的な考え方に対して、“誰が、どんな文脈で語るか”の重要性を強調した。たとえば、大阪の事例では、“夜の大阪を安全に楽しむ”というストーリーを、実際に欧米人が体験し、自分の感覚で語っている。
また、同社が運営する在日外国人コミュニティも、「日本を発信したい」という熱量を持った人たちで構成されている。
つまり、ビヨンドが見ているのは単なるフォロワー数ではない。
“その人が本当に日本を好きか”“自分の言葉で語れるか”“フォロワーとの関係性があるか”
そこに価値を置いている。
これは、インフルエンサーマーケティングが成熟期に入りつつある今、非常に重要な視点だろう。
道越氏が特に力を込めて語っていたのが、“高付加価値化”についてだった。
「海外の富裕層の方たちに地域の伝統文化や自然、歴史を生かしたコンテンツを、安売りせず高く売っていこうと」
その象徴的な事例が、岐阜・長良川の鵜飼だ。
「例えば、岐阜の長良川の鵜飼。これのVIP席を1人10万円で作りました」
しかも、販売開始から短期間で欧米から予約が入ったという。
「1ヶ月前の告知だったんですが、すぐアメリカやフランスから予約が入りました」
会場からは驚きの声も上がった。
なぜ、10万円という価格でも成立したのか。
その理由について、道越氏はこう語る。
「鵜飼はアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点で海外から否定的な意見が入るんじゃないかと心配したんです」
しかし、実際に取材を進める中で、別の物語が見えてきた。
「鵜匠さんが鵜を愛情を持ってすごく育てていて、自然の鵜よりも長生きするというストーリーがありました」
この“背景”を丁寧に伝えることで、単なる観光体験ではなく、“文化理解の体験”へと価値を変換した。
「それを丁寧に英語でお伝えして、現地のお食事やお酒も飲めてという内容にしたら、納得してこの値段でも払ってくれると」
そして最後に、非常に本質的な一言を口にした。
「海外の方の感覚では、この価格は全然高くないんです」
日本人はしばしば、“インバウンド向け=安く大量に売る”という発想になりがちだ。しかし、海外の富裕層が求めているのは、“ここでしか体験できない物語”である。
道越氏は、高知県の刀鍛冶体験の事例も紹介した。
「高知駅からローカル電車で2時間ぐらい揺られるすごいアクセスの悪い場所なんですが」
普通なら、“不便だから売れない”と考えてしまう。しかしビヨンドは違った。
「職人の技術やストーリーをしっかり伝えて、これも10万円ぐらいの体験なんですが、掲載して2週間でイギリス、ドイツ、イスラエルから予約が入ってきています」
ここで見えてくるのは、“不便さ”さえも価値になり得るという視点だ。
簡単に行けないからこそ特別。
大量生産できないからこそ希少。
つまり、“地方だから不利”ではなく、“地方だからこそ作れる価値”がある。
イベント終盤、道越氏は愛知への率直な思いを語った。
「愛知は新幹線も通っていてインフラも文化も揃っているのに、地元の方が『愛知は何もない』とおっしゃるのがすごくもったいないです」
これは、多くの地域に共通する課題かもしれない。地元の人にとって当たり前になっているものほど、その価値に気づきにくい。しかし海外から見ると、日本の地域文化や歴史、食、祭り、職人技術は圧倒的な魅力を持っている。
「欧米では『SHOGUN 将軍』の影響などで侍ブームが来ているのに、日本の受け皿が整っていません」
つまり、世界の側には“日本を体験したい熱”がある。
足りないのは、その受け皿であり、ストーリーであり、届け方なのだ。
「海外目線でもう一度地域の魅力を見直して、お金を落とすコンテンツをしっかり揃えていくことを是非皆さんとやっていきたいです」
この言葉には、“地域の価値を再編集する”というビヨンドの思想が凝縮されていた。
今回の東海共創会議では、インバウンド施策の具体論だけではなく、“地域がどう稼ぐか”という本質的なテーマが繰り返し語られていた。
金城が語った「現地目線」。
道越氏が語った「ストーリーテリング」。
両者に共通していたのは、“日本側の論理だけで発信しない”という姿勢だ。外国人観光客は、「日本だから来る」のではない。
“自分にとって意味がある体験”を求めて、日本を選んでいる。
だからこそ必要なのは、地域資源を海外目線で再編集し、その価値を伝え切ること。そして、単なる観光消費ではなく、「この地域だからこそ体験できる価値」を作り上げることだ。
2026年の国際スポーツ大会は、確かに大きな追い風になるだろう。しかし、それはゴールではない。本当に問われているのは、その機会を一過性で終わらせず、“地域の未来につながる仕組み”に変えられるかどうかだ。
今回のセッションで語られた実践知は、そのヒントを数多く示していた。東海エリアには、まだ世界に知られていない魅力が数多く眠っている。それをどう掘り起こし、誰に、どんな物語として届けるのか。
その挑戦は、すでに始まっている。
現在クリスクアジアでは、東南アジア・東アジア・欧米の訪日上位国に現地スタッフを配置し、生活者視点に基づいたインバウンド戦略支援を行っています。
特に以下のような課題をお持ちの企業様におすすめです。
・訪日客のSNS投稿を増やしたい
・店頭体験を拡散につなげたい
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